「九谷毛筆細字(さいじ)技法」とは、主に和歌などの古典文学を極細の毛筆で磁器に描き込む技法です。明治以降、九谷焼の繊細な絵付けに見合う表現として石川県の南部地方で独自に発展してきました。 現在まで一世紀以上に亘り、田村家に一子相伝の技法として受け継がれています。
細字はマンガンを原料とした釉薬で描かれた後、約800度で焼成されます。粘性のある釉薬を用いて極小の文字を描くことは難しく、技術の修得には長い年月を要します。 立体で曲面の多い素磁に整然と文字を配列し、絵付け全体とのバランスを図る為に、作業は基本的には裸眼で行います。また、器の内側に描く際は、縦の線は下から上に引くなど通常とは全く異なる書き順を用います。極小でありがながらも書としての美を兼ね備えた文字表現を目指して、独自のさまざまな工夫が凝らされています。 直径三センチの内側に百人一首を収めた洋杯は、まさに技法の粋を極めた象徴的な作品であり、歴代が技術の研鑽の為に取り組んできました。
初代・小田清山、二代・田村金星のもとに進境を示してきた細字技法は、三代・敬星、四代・星都に受け継がれ、現代性あふれる雅の美を備えた作品を追求すべく、今もなお発展しています。